生産者インタビューNo.09
人の心と体を満たしたい! 作る人も食べる人も作物も健やかに
【 仙台市宮城野区 】株式会社MITU 代表取締役 佐藤好宣さん
野菜作りが心と体のリハビリに
宮城野区の沿岸に近い岡田地区。遮るもののない広い空の下に、農園MITU(ミツ)の畑があります。代表の佐藤好宣さんは「味で宮城一のニンジンを作りたい」と10種類のニンジンを栽培するほか、ブロッコリーや枝豆、ヤーコン、サツマイモなどを育てています。
佐藤さんが農業に関心を持ったきっかけは、20代前半で交通事故に遭ったことでした。重い後遺症に苦しむ中、家庭菜園で野菜を育ててみると心と体に好影響を与え社会復帰を果たすまでに回復。言語聴覚士の資格を生かし、障害を持つ人のリハビリに携わりました。仕事を通して見えたのは、彼らには施設や病院を出た後の居場所が少なく引きこもってしまう現実。その姿にかつての自分を重ねた佐藤さんは「農業を通して障害を持つ人たちの就労と生きがいの場を作ろう」と決意し、2013年に就農しました。
農の力を信じて農福連携
表情明るく社交性もアップ
自宅は震災の津波で流出し内陸へ移転しましたが、畑は生まれ育った岡田地区に持ちたいと考えた佐藤さん。掘ればがれきが出てくる状態で塩害も残る畑を、土壌の分析と改良を繰り返し地道に土作りを行いました。最初は年間50品目ほどを育てて沿岸部の土に合う作物を見極め、徐々に品目を絞っていったそうです。
並行して2014年には、障害者の就労支援をスタート。農福連携という言葉もまだ一般的ではなく、福祉施設に打診しても、最初はほとんどが門前払いでした。初めはうまくいかず「何度も投げ出しそうになった」と佐藤さんは振り返ります。しかし、実際に活動にこぎつけると、どの人も表情や体力、社交性が目に見えて向上し、農が人に与える力を実感しました。共感の輪は広がり、現在は県内6施設、2団体と連携しています。
仙台市街地の向こうに泉ヶ岳から南へ連なる山々を一望できる畑。ニンジンは品種ごとに旬があり7~4月まで出荷します。
自然の力を生かす農業を実践
6次産業化の夢も
法人・農園名の由来は「農で心と体を“満”たす」。作る人も食べる人も作物も健やかであって欲しいという思いが込められています。健康な野菜を作るためのこだわりは、化学農薬や化学肥料をできるだけ節減し、さらに微生物が活発に活動する豊かな土壌作り。現在期待を寄せるのは、ソルガム(イネ科の穀物)を育てて土にすき込み土壌を改良する方法です。化学的な物質ではなく、自然の力で土を良くしたいと研究を重ねています。
今後の目標を聞くと「やりたいことだらけですよ!」と佐藤さん。障害者の受け皿を広げるための農地拡大や、主力のニンジンの収量と品質のさらなる向上、ソルガムから作ったシロップの製品化など6次産業化の夢も。MITU はこれからも伸び盛りです。
【 ニンジン 】
「カロテン」の語源は英語の「キャロット(carrot)」からと言われるほど、栄養豊富な緑黄色野菜の代表格です。カロテンは油と一緒に摂取すると吸収率が高まるので、加熱の際に油を使うほか、ジュースやサラダなど生で食べる場合にも、少量の油を加えるのがおすすめです。
また、紅色の金時人参をはじめ、近年は、黄・白・紫など色を楽しむ品種も増えてきています。直売所やマルシェでは、とれたての「葉付きニンジン」が手に入ることも。葉も香りがよく栄養価が高いので、ぜひ天ぷらや炒めものなどに使ってみてください。