生産者インタビューNo.15
おいしい仙台産野菜を地元の人に届けたい。さまざまなトマトを顔の見える直売で
【 仙台市若林区 】 佐藤 勘一郎さん きくいさん
名取川沿いの肥沃な土地で
多品目・多品種の野菜を育てる
仙台市若林区、名取川と広瀬川の合流点にある日辺(にっぺ)地区は、野菜の生産が盛んな地域。古くは伊達家にその年の最初に採れた作物を納める役割を担い、仙台の野菜供給地として歴史をつないできました。
「かつて、名取川の上流に亜炭鉱があったので、大雨で氾濫が起きるたびに川に流れ込んだ亜炭の粉が畑の土と混ざり合い、病原菌などが繁殖しない健全な土になった。川があったおかげで土が豊かになったんです」と話すのは、仙台藩が誕生する前から続くという農家の16代目・佐藤勘一郎さん。
この道55年の勘一郎さんは現在、妻・きくいさん、娘さんの3人で農業に従事し、1.6haの畑で多品目・多品種の野菜を生産しています。取材で訪れた7月、4棟のハウスで栽培していたのは、ミニトマトをはじめ、キュウリ、ナス、ピーマン、パプリカ、ゴーヤなどの夏野菜。一つの野菜でも数品種ずつ栽培しているのが特徴で、トマトはなんと16品種。ほかにもゴーヤ4品種、ナス8品種など。その理由を尋ねると、勘一郎さんは「いろいろな美味しいものを食べることが楽しみなんです」と分かりやすい一言で答えてくれました。
ご夫妻は、「自分たちが作った安全でおいしい野菜を仙台の人に食べてほしい」との思いから、顔の見える「直売」にこだわっています。4月~11月まで勾当台公園で月に2回開催されるイベント「仙台市旬の香り市」、4月~11月まで若林区役所で開催される「わかばやしふれあい朝市」に自ら出店するほか、「アクアイグニス仙台」の農産物直売所マルシェリアンへ出荷。またご夫妻が作る野菜の味を求める料理人からの引き合いも多く、市内の飲食店へ契約出荷も行っています。
驚くほど甘いと評判のトマトは土作りが決め手
市場にはあまり出回らない希少品種も
勘一郎さんが栽培する野菜の中でも、特にトマトはファンの多い野菜です。ハウスに入ると、色とりどりのトマトが鈴なりになっています。「プチぷよ」「ミドリちゃん」「チョコちゃん」といった市場にはあまり出回らない品種も多く、中には種苗会社から頼まれて試験的に栽培しているという名前の付いていない新品種も。勘一郎さんは新しいトマトを育てるのも、食べるのも楽しみにしているといいます。
ご夫妻が栽培しているトマトは、6月下旬~12月上旬までが収穫期。その間、収穫とともに実の大きさを揃えるための「摘花」や、実に栄養を行き渡らせるため葉を取り除く「葉かき」など、きめ細かな管理を行います。夏季は日差しが強すぎると実が割れてしまうため、ハウス上部に遮光シートを掛けるなど、手塩にかけて育てています。
「トマト嫌いのお子さんが、うちのトマトを食べたらトマトが大好きになったんだって。そう言われるとうれしいです」と顔をほころばせるきくいさん。ご夫妻が作る野菜は、どれも一般的なものと比べてえぐみが少なく、糖度が高いと評価を受けています。
おいしいトマトを栽培する秘訣は、長年の研究の末にたどり着いたこだわりの土作りにあります。廃菌床を原料にした堆肥を土壌にすき込み、肥料は米ぬかを使ったぼかし肥料【1】を使用しています。「有機栽培とはうたってない。でも、こだわって作っています」と勘一郎さんはきっぱり。
こだわりは土作りのほかにも。ご夫妻は種から「接ぎ木苗【2】」を育成し、野菜を栽培しています。接ぎ木苗は連作障害や病害虫に強くなるといい、手間暇をかけて育て、近隣の農家に販売も行っています。特にトマトは長期間収穫できるように丈夫な苗を育てるのも腕の見せどころ。「農家が買わないような苗はダメだ」という勘一郎さんの言葉に、ベテラン農家の自信がうかがえます。
【1】 米ぬかや油かすなどの有機物を微生物で分解・発酵させて作る肥料。
【2】 根となる苗(台木)と実をつける苗(穂木)の茎を切って断面を接着させ、1本の苗にしたもの。
採れたてのおいしさをそのままに
手作りの漬物は佐藤家自慢の味
「旬の香り市」「わかばやしふれあい朝市」では、きくいさんが手作りした漬物の販売も行っています。「日辺漬物クラブ」として、勘一郎さんのお母さんが始めた漬物の味を今も受け継いでいます。
野菜と同様に、漬物も多種多彩。青トマトのピクルスや人気の福神漬けをはじめ、キュウリの麹漬け、南蛮漬け、ナスの一夜漬け、大根のレモン漬け、らっきょう漬け、しその実漬け、梅干しなど、佐藤家伝統の味もあれば、きくいさんが現代風のアレンジを加えた味も。
「『この前買って食べたらおいしかったよ』『また買いに来たよ』って言われるのが一番うれしいね」ときくいさん。おいしさの秘密は、朝に収穫した鮮度のよい野菜だけ使用すること。まとめて大量に仕込むことはせず、イベント開催日に合わせて仕込むそうです。「新鮮なうちに食べてほしいから消費期限を短めに設定してるの。お客さんにも添加物を使ってないから早めに食べてねって言っているんですよ」と話します。漬物はどれも素材の持ち味を生かしたものばかり。野菜そのものがおいしいからこそ、おいしい漬物ができるのです。
最後に、「去年より今年、今年より来年、おいしいものを作りたい」と語ってくれた勘一郎さん。おいしさへの探求はまだまだ続きます。
【 トマト 】
南米アンデス高原が原産地とされるナス科ナス属の野菜です。世界中には1万種類以上のトマトがあり、日本だけでも300種類以上。大きさ(重量)によって大玉・中玉・ミニトマトに分類されますが、切らずに食べられる手軽さや使い勝手の良さなどから、近年はミニトマトの作付面積が増えています。 ヨーロッパでは 「トマトが赤くなると医者が青くなる」といわれるほど、栄養価の高い野菜。赤の色素成分であるリコピン(リコペン)は、強い抗酸化作用があります。ほかにも、体内でビタミンAに変換されるβ-カロテン、ビタミンC、体内の余分なナトリウムを体外に排出する作用のあるカリウム、食物繊維などをバランスよく含んでいます。