地理的表示(GI)保護制度に登録された 「仙台せり」のおいしさを全国へ発信 – とれたて仙台 仙台の大地の贈り物

生産者インタビューNo.16
地理的表示(GI)保護制度に登録された 「仙台せり」のおいしさを全国へ発信

【 仙台市太白区 】 大友 仁一さん

仙台市太白区、名取川以南に位置する中田地区では、米作りを中心に小松菜やちぢみ雪菜、ブロッコリー、枝豆、せりなどさまざまな野菜が生産されています。
「昔は、河川敷の畑では砂地の土壌を活かしてニンジン、大根などの根菜類、河川敷以外の畑ではミョウガタケやアサツキを作っていました。アサツキの後にせりを作るようになったんです」と教えてくれたのは、農業歴50年の大友仁一(じんいち)さん。
大友さんは、水稲、枝豆、せりのほか、直売所出荷用にアスパラガス、レタス、トウモロコシ、キャベツ、ブロッコリーなどを生産しています。

名取川の伏流水が流れる中田地区で
30年以上にわたりせり栽培をけん引

正月の雑煮や七草粥、鍋料理に彩りを添えるせりは、ここ数年のせり鍋ブームを背景に料理のメイン食材として使われるようになりました。実は、宮城県はせり生産量が全国1位。県内では、江戸時代から栽培が行われてきた名取市の「仙台せり」が有名ですが、産地である上余田・下余田地区に隣接する中田地区でも、名取川の豊富な伏流水を利用して35年ほど前から栽培が行われています。大友さんは当初からせり栽培に取り組んでおり、現在は生産者5人で組織した「前田出荷組合」として市場出荷を行っています。

冷たい風に熱々の鍋料理が恋しくなる12月上旬、大友さんはモノクロの田園風景の中でひときわ目を引く、青々としたせり田で収穫作業をしていました。「本当は年末に合わせて出荷したいんだけど、11月が暖かかったから予想以上に伸びてしまった」と大友さん。
収穫は、胸まである胴付き長靴を着用して水深約30cmのせり田に腰を下ろし、手で引き抜いたせりを水で何度も洗って、コンテナに入れていきます。せりはきれいな水でしか育たないため、大友さんは地下85mからくみ上げた地下水をせり田に引いています。

「根と茎を折らないように気を付けて収穫します」と大友さんは土の中に指を入れて根っこごと持ち上げます。土が硬いと根が切れてしまったり指が痛くなったりするため、せりを植える前に十分な代かき(しろかき=田んぼに水を入れ、土を砕いて平らにする作業)を行うそうです。冬の収穫作業は寒そうに見えますが、地下水は年間を通じて13℃前後を保っているため、気温より水温の方が温かく感じるといいます。

「味も、形も、いいものを作りたい」
そのための手間暇は惜しまない。

せりの生産は、大友さんが収穫・洗浄作業、奥さんと2名のパートスタッフが選別・梱包作業を担当しています。栽培している品種は、寒さに弱く折れやすいものの太く育つことで選んだ「名取5号」。「根っこが貧弱では見栄えが悪い」と土作りには有機質肥料を使用し、密植しないように植えるなど、茎だけでなく根も太く育つように工夫しています。

「味がいいものを作りたい。そして形もいいもの。味が同じなら形がいい方を選ぶでしょう?」と味も形も追求するのが、大友さんの野菜作りの信条です。

せりは種からの発芽率が低いため、株分けをして栽培します。昨シーズンに残しておいた姿形のよいせりから「ランナー」を伸ばし、30cmほどにカットして「種ぜり」を作ります。ランナーとは根元から地面を這うように伸びる茎で「ほふく茎(けい)」とも呼ばれ、節から新しい芽や根が出ます。そして種ぜりから新芽や根を出す「芽出し」作業を行った後、9月末~10月半ばにかけて代かきをしたせり田に定植します。

「重要なのは定植のタイミング。種ぜりを土の上に”ばらまく”ので、根が張る前に台風が来ると流されてしまいます」と大友さん。「秋冬作の野菜は播種が1日ずれると収穫が20日前後ずれる」とのことで、正月需要に合わせて出荷もピークを迎えられるように、天気予報とにらめっこしながら定植の日を決めるそうです。

定植後は、鴨による食害対策も重要です。対策をしなければ夜の間にどこからともなく飛んできて、一晩で食い尽くされてしまうのだとか。大友さんはせり田全体をネットで覆い、大切なせりを守っています。

収穫したせりは、井戸ポンプ小屋に造られた専用の洗い場でゴミや泥を洗い流します。この時期、大友さんは朝6時から作業を開始。朝食・昼食を取りに自宅へ戻る以外は、18時半ごろまで収穫・洗浄を続けます。

選別・梱包作業では、変色した葉や折れた茎などを1本1本丁寧に取り除き、M・Lなどサイズ別に分けて1束100gに結束、市場出荷用段ボールに30束ずつ詰めていきます。高品質のせりを出荷するために1株から半分は取り除かれるといい、出荷されるのはまさに選ばれし精鋭たち。「ただ作っているだけと思ったら大間違い」という言葉にうなずくばかりです。

「仙台せり」を次の世代へつなぐために
自信と誇りを持って生産に取り組む。

「登録が決まった時はうれしかったね」。2024年3月、「仙台せり」が農林水産省の定める地理的表示(GI)保護制度(※)に登録されました。県内では「みやぎサーモン」「岩出山凍り豆腐」「河北せり」に続いて4番目です。

これまで、名取市と仙台市で生産されるせりは知名度の高い「仙台」の名を冠して「仙台せり」のブランド名で出荷してきました。せり鍋ブーム以降は需要が高まる一方ですが、生産者の高齢化と後継者不足の問題はせりも例外ではありません。

そこで、歴史ある「仙台せり」を次の世代へ確実に継承するために、2019年に名取市と仙台市太白区の生産者、計85人が「仙台せり振興協議会」を設立し、GI登録を目指してきました。2年前から同協議会会長を務める大友さんは、「これからはブランド名に負けない、期待に応えられる品質の高いせりを全員で作っていきたい」と意気込みを語ってくれました。

大友さんが生産する「仙台せり」は、JA仙台を通じて4月上旬まで仙台市場・東京市場・横浜市場を中心に出荷されるほか、JA仙台中田農産物直売所「味菜鮮」(毎週水・土曜のみ営業)、ヨークベニマルあすと長町店の地場野菜コーナーで購入可能です。

※地理的表示(GI)保護制度
その地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因の中で育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として保護する制度。

【 せり 】

「春の七草」のひとつで『万葉集』にも登場する日本原産の野菜。若葉の成長が1カ所に競り合うように育つことからその名が付いたといわれています。宮城県は全国1位の生産量を誇り、その約8割が名取市、仙台市太白区で生産される「仙台せり」です。秋から冬にかけて出荷される根っこ付きの「根せり」は力強い香りと歯応え、春に出荷される「葉せり」は爽やかな香りとやわらかな歯応えを楽しめます。栄養価が高く、体内でビタミンAに変換されるβカロテンやビタミンC、カリウム、鉄、葉酸などを豊富に含み、香り成分である精油成分にはリラックス効果があるといわれています。

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