生産者インタビューNo.17
受け継がれる仙台発祥の伝統野菜 「曲がりネギ」
【 仙台市宮城野区 】 赤間士朗さん
七北田川が東西に流れる宮城野区岩切は、肥沃な土壌を活かした米作りが盛んな地域です。また、余目(あまるめ)地区は仙台市の伝統野菜「曲がりネギ」の発祥地とされています。
曲がりネギが作られるようになったのは明治時代。地下水の水位が高く長ネギ(根深ネギ)を植えても根腐れを起こしてしまうことから、栽培の途中で一度掘り出し、斜めに盛った土に寝かせて植え直す「やとい」という独自の栽培方法が生まれました。太陽に向かって伸びる植物の習性により長ネギは起き上がろうとして曲がって成長し、その際に受けるストレスによりやわらかさと甘みが増すといわれています。
先輩のアドバイスを受けながら
自分の畑の「正解」を模索する
「子どもの頃、祖父にコンバインに乗せてもらったことが楽しくて農業に興味を持ちました」と話す赤間さんは、岩切で明治時代から代々続く農家の6代目後継者。2015年に就農し、現在は父親とともに水稲のほか、曲がりネギを生産しています。
12月上旬、「やとい」が始まると聞いて訪ねると、畑には掘り出し前の長ネギがまっすぐ空に向かって伸びていました。「この状態でも出荷できますが、曲がりネギはもう一手間を加えます」と赤間さんはトラクターでネギを掘り出していきます。「出荷するなら根は切れてもいいのですが、曲がりネギはこれからまた成長させるので、根を切らないように気を付けています。どんな植物も根がしっかりしていないと葉が大きく育たないですからね」。
栽培している品種は、白い部分が太く長く育ち「繊維質がやわらかく曲がりネギに一番向いている」と選んだ「ホワイトスター」。長ネギは栽培期間が長く、例年3月下旬~4月上旬に種をまき、5月下旬~6月上旬に、育てた苗を畑に植える「定植」を行います。その後、8月下旬~9月上旬に白い部分が長く育つように根元に土をかける「土寄せ」と「追肥」を実施。「大切なのがタイミング。暑い時期に追肥をすると肥料を吸い過ぎて葉ばかり伸びるので、猛暑が去ったタイミングをねらいます。また、病害虫が発生しないようにこまめな除草も欠かせません」と赤間さん。
曲がりネギ作りで赤間さんが心がけているのは、先輩農家の方々に相談すること。アドバイスをもらいながら、聞いた栽培方法を試しては「これはよかった」「これはうちの畑には合わなかった」などトライアンドエラーを繰り返しているといいます。「生育を左右する一番の要因は天候ですが、ほかにも要因があります。例えば土に残っている肥料は目に見えないので、肥料を撒いてみて葉の緑色の濃さで見極めるしかありません。自分で正解を見つけるしかないのが難しいところ」と打ち明けます。
食卓の主役にするために
太く、美しく、おいしい曲がりネギを
「普通の人は、こんなに面倒くさいことをやりたいと思わないですよね」と笑う赤間さんですが、伝統を守り受け継ぐという強い思いを胸に秘めています。曲がりネギ独自の栽培方法である「やとい」は12月上旬に行います。露地の畑でそのまま行う方法と、ビニールハウスの中に運んで行う方法があり、赤間さんは「葉がきれいに仕上がる」という理由からハウスを選択。
「やとい」の作業は、初めに30度ほど傾斜をつけた畝を作り、1本ずつ隙間なく並べ、ネギの白い部分に土をかけます。土をかける作業は機械で行いますが、ネギを並べるのは手作業です。限られたスペースを有効に活用するため、ハウスの中で行う「やとい」はネギを重ねて並べることで、下になったネギの白い部分を覆うように植え直すのが特徴です。
「土のかけ方、寝かせる角度、水の量、温度管理……曲がりネギ作りは「やとい」が一番難しい」と赤間さん。角度の違いや土のかけ方でJの字になったり、起き上がることで背面のスペースが空き、今度は空いたスペースに向かって成長してS字になったりすることもあるといい、毎年少しずつ改良しながら、自分の中での「やとい」のベストを模索しています。
収穫は「やとい」から約1カ月後の1月中旬~2月下旬。白い部分が成長して新しい葉が出てきた頃が収穫開始の合図です。「とにかく見た目が美しく、おいしい曲がりネギを作りたいと思っています。料理の主役として食卓にのせてもらいたいので、真っ白い部分を太く長く育てて、綺麗に曲がったネギを出荷したい。消費者においしいと言ってもらうには、まず手に取ってもらうこと。見た目は大切な『きっかけ』です」と言い切ります。
出荷方法にも見た目の美しさにこだわります。「先輩のネギを見ると本当にきれいな曲がり方していて、束ね方もきれいです。共販出荷(JA等の生産者団体が、生産者から個々の農産物を集荷して規格を統一し、大量に消費地へ出荷する販売方式)は同じ値段で買ってもらうので、自分がレベルを下げるわけにいきません」。また曲がりネギは生産者が結束して段ボール箱に入れて出荷するため、そのまま店頭に並びます。
受け継いだ仙台の伝統野菜を
未来へつないでいきたい
「こんなに手間暇をかけて育てている曲がりネギですが、初めから曲がって育つと思っている人や、栽培に失敗して曲がったと思っている人がいます。中には存在を知らない人も」と残念そうに語る赤間さん。
「未来を担う子どもたちに曲がりネギのことを知ってもらいたい」と地元の岩切小学校などで食育活動に取り組むほか、曲がりネギのPR活動を積極的に行っています。
「先輩たちが積み上げてきた曲がりネギの歴史と伝統をつないでいきたい。そのためにはまず自分の中で栽培方法を確立したいですね」。常に笑顔を絶やさず、ネギの話題になると饒舌になる赤間さんからは、曲がりネギへの愛情、そして農業が楽しくて仕方がないという様子がひしひしと伝わってきます。
大切に育てられた曲がりネギは、JA仙台岩切支店を通じて仙台あおば青果に出荷されます。岩切産の曲がりネギは「岩切産やさい」と記されたシールで結束されていますので、目印にしてください。
【 曲がりネギ 】
仙台市の伝統野菜のひとつで、明治時代に宮城野区岩切の余目(あまるめ)地区で栽培が始まったとされています。主に白い部分を食べる長ネギ(根深ネギ)を栽培の途中で一度掘り出し、斜めに寝かせて植え直す「やとい」という作業を行うことで曲がって成長します。曲がることでネギにストレスがかかり、やわらかさと甘さが増すのが特徴です。抗酸化作用のあるβカロテン、ビタミンC、カルシウム、カリウム、葉酸、食物繊維など栄養が豊富。ネギ特有の香気成分「アリシン」には殺菌作用や抗酸化作用があり、寒い季節の風邪予防にもぴったりです。
