地域農業の担い手として、農地を守る 仙台で古くから栽培されてきた 「ちぢみ雪菜」を変わらずに – とれたて仙台 仙台の大地の贈り物

生産者インタビューNo.19
地域農業の担い手として、農地を守る 仙台で古くから栽培されてきた 「ちぢみ雪菜」を変わらずに

【 仙台市若林区 】農事組合法人 六郷南部実践組合

津波被害の藤塚地区 待ち望んだ農業再開

12月下旬、若林区六郷の中でも海に近い藤塚地区。一面が濃い緑に覆われた雪菜畑で、シャク、シャク…とリズミカルな刈り取りの音が聞こえます。雪菜は寒さにあたるにつれて自身の凍結を防ぐため糖分を蓄え、葉がちぢれて肉厚になる性質があります。この時期には「ちぢみ雪菜」と呼ばれ、甘みがぐっと増します。「仙台で昔から作られている雪菜をこれからもずっと変わらずにこの地で栽培していきたい」と話す代表理事の板橋吉光さん。

古くから農業が盛んだった一帯は、東日本大震災の津波で甚大な被害を受けました。がれきに埋め尽くされ塩害を受けた農地の復旧・除塩工事により、営農を再開できたのは2013年。震災前に藤塚・種次地区に暮らしていた板橋さんら農家十数軒が、前身の転作組合(南部実践組合)で作付けを始めました。震災以降、地区外で野菜を作るしかなかった板橋さんたちにとって、待ちに待ったふるさとでの農業再開でした。

2015年、農事組合法人※ 六郷南部実践組合(以下(農)六郷南部実践組合)として法人化。離農した農家の農地を引き受け、地区の5割以上にあたる農地の集積・集約化を図りました。水稲、大豆のほか露地畑や施設を利用してちぢみ雪菜、枝豆、レタスなどを栽培し、経営面積は約70haに及びます。

※農事組合法人:農業協同組合法に基づき農業生産について協業を図ることにより、共同の利益を増進することを目的として設立された法人

見回り欠かさず 野菜の声を聴く

雪菜は古くから仙台周辺で栽培されてきた宮城県特産の野菜です。10月に播種した後、11月下旬から3月下旬まで長く収穫できるため、農家にとっては冬の貴重な収入源。苦みやえぐみがほとんどなく、栄養価が高く、調理法も多様で使いやすいことが特長です。

(農)六郷南部実践組合では、仙台市内最大規模の約1haで栽培しています。栽培期間中もっとも気を遣うのは播種後の病害虫対策。高さが収穫の大きさの半分ほど生育した頃に、最適な時期を見計らって害虫や病害の予防や駆除を行います。「雨が多すぎると葉が傷むし、乾燥しすぎると虫が出る。常に農地を見て回って野菜の声を聴くんだよ。してほしいことは野菜が教えてくれる」と板橋さん。「この地区で育った雪菜は、冷たい潮風を直接受けることで甘みがさらに増している」と言います。

収穫はすべて手作業。大きな外側の葉を落としてから出荷する。

未経験の若手を雇用
任せて育て、未来の担い手に

(農)六郷南部実践組合は、高齢化に伴い未経験の若手を積極的に雇用しています。板橋さんを含む理事5人のほかに、農地の近くに家族とともに移住した人や、農業を志して高校卒業後すぐに仲間入りした青年など、現在4人の社員がいます。「幅広い年代が一緒に働くことで活気が増しました」と板橋さんは目を細めます。募集は農業専門求人サイトなどを活用し、理事の面接を経て採用。面接で重視するのは「農業への意欲と、 この地区を愛し守ってくれるかどうか」。雇用を始めるにあたり、従来あいまいだった休日や就業時間等の規定も定め、徹底させました。

作物の管理を任せるまでには4、5年かかるそう。「思い切って仕事を任せることで育ってくれる」とは、実感のこもる言葉です。任せて失敗することもあるのでは…と尋ねると「もちろん、あるわな。そんときはみんなでフォローするだけよ、こっちは経験値が相当あっからね」。若い世代に農業の魅力を知ってほしい、高齢化の進む地域の未来を担う人材になってほしい。そんな夢が少しずつ形に現れてきています。

  北海道から東北、関東、北陸地方まで出荷される「宮城県産ちぢみゆきな」。12月下旬から3月上旬まで出荷される。おひたし、みそ汁などのほか、タラ鍋との相性がとても良い。

 

【 ちぢみ雪菜 】

中国の「タアサイ」系統の野菜を、日本で品種改良した冬野菜です。雪菜の中でも、5度以下の気温に10日間以上当てたものが「ちぢみ雪菜」として収穫されます。 寒さに強く、冬場には霜に当たることで、甘味が増します。甘味の中にほのかな苦味が感じられ、葉は柔らかく、茎はシャキシャキとした食感で、さまざまな調理方法で食べることができます。 また栄養が豊富で、β-カロテンやカルシウム、ビタミンCなどが多く含まれているのも魅力です。

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