原木しいたけのおいしさで多くの人を笑顔にしたい – とれたて仙台 仙台の大地の贈り物

生産者インタビューNo.03
原木しいたけのおいしさで
多くの人を笑顔にしたい

【 仙台市泉区 】熊谷農園  熊谷幸夫さん

泉ヶ岳のふもとの里山で
自然の力が育む原木しいたけ

「生しいたけと干ししいたけのどちらにも合う品種はあるし、生しいたけとして力を発揮する品種もあります。毎年いろいろ改良されていて、しいたけにもたくさんの種類があるんですよ」。

原木しいたけの栽培を始めてから45年という熊谷幸夫さんは、「ほだ木」※が林の中に整然と並ぶ「ほだ場」を案内しながら、豊富な知識を話してくれました。その言葉の一つひとつから、原木しいたけ栽培の奥深さと、栽培にかける強い思いを感じます。

※しいたけの種菌を植え付けて育てる原木

熊谷さんご家族が経営する熊谷農園があるのは、泉ヶ岳のふもと、泉区朴沢地区。「良いしいたけが育つのは、中山間地であるここの環境がいいからなんだと思う」と熊谷さんが言うように、樹木が生い茂る豊かな自然と、長谷倉川から流れる清涼な水、寒暖差のある気候が、うまみの詰まった原木しいたけを育てています。

しいたけの栽培方法には、自然に近い環境で育てられる原木栽培と菌床栽培がありますが、現在は菌床栽培が主流となり、原木栽培で育てられるしいたけは貴重な存在となっています。

原木しいたけ栽培との出会い

熊谷さんが原木しいたけ栽培を志したのは、就農してしばらくたってからのことでした。「これから自分が栽培する作物について、何を選んでよいのか分からなかったんです。家で繁殖牛を飼っていたので畜産も考えましたが、分娩の立ち合いなどが苦手だったんですよ(笑)」。

そんなとき、宮城県の林業教室で、群馬県にある原木しいたけ栽培の先進地へ研修に行く機会に巡り合いました。「規模が桁違いでした。いつかこういう生産者になりたいと思い、その経営にあこがれました」。

実はご両親も原木しいたけを栽培していたそうですが、熊谷さんは原木の数を増やして本格的に栽培に乗り出すことにしました。

高い品質とおいしさに自信
探究心で道を極める

「最初から品質では負けていないと思っていました」と言う熊谷さんは、規模を拡げながら品評会へも出品。品評会で出会った縁を活かし、岩手県で日本屈指のしいたけを栽培している先輩方から、栽培の方法を学ぶこともあったといいます。「岩手県で良いしいたけが採れるということは、隣県である宮城県でも良いしいたけが採れると思ったんです。だから勉強しました」。

熊谷さんの栽培への探究心は、1995年から4年連続で農林水産大臣賞を受賞という形で実を結びます。「1年間に何回も収穫するのではなく、採りすぎずに原木の栄養をしっかり保ち、じっくり育てるのがいいと思っています。このやり方が、評価につながったのではないでしょうか」。

原木の移動刺激や温度・水分管理が要
手塩にかけて育てられる原木しいたけ

原木しいたけ栽培の主な作業としては、①原木に穴をあけてしいたけの種菌を打ち込む「植菌」、②植菌したほだ木を1本1本並べて置き、さらに数カ月後に並べ替える「仮伏せ・本伏せ」、③ほだ木に水分を含ませる「浸水作業」などがあります。これに収穫・出荷作業などが加わります。

そして、原木しいたけの栽培で要となるのは、移動時の振動によってほだ木を刺激する「移動刺激」と「温度管理」、「水分管理」の3点。天候に合わせて、植菌・移動の時期、ほだ木の水分量の調整が必要になります。「品種や用途、時期に合わせて、林のなかにあるほだ場での露地栽培と、ハウスでの栽培を並行して行っています」とにこやかに教えてくれた熊谷さんですが、原木しいたけ栽培の労力と難しさが伝わってきます。

熊谷農園では「出荷するまで自分のところで責任を持ちたい」と、干ししいたけの加工や袋詰めも自宅で行っているそうです。

みんなの喜ぶ顔が見たい—。
その一心で栽培を続ける

熊谷さんが原木栽培を続けるのは、原木栽培ならではのしいたけのおいしさと自然の力を、多くの人に知ってほしいという気持ちがあるからです。「たくさんの人を喜ばせたいんです。食べて喜ぶ、もぎ採って喜ぶ。楽しむ顔が見たいから、できることはどんどんやっていきたいと思っています」という熊谷さんは、可能な限り小学校の体験学習や地域のイベント、ホテルの企画プランなどに、原木しいたけのもぎ採り体験等で協力。また、「重労働だけど原木しいたけの栽培を続けられるのは、自分のしいたけを待ってくれているお店やたくさんの人たちがいるから」と、「熊谷農園のしいたけ」にこだわる多くの飲食店やお客さんの存在を大切にしています。

今後のことについて、「しいたけは免疫力を高める成分も含み、体に良い食べ物であることをもっと多くの人に知ってほしい。そうすればまだまだ伸びていく産業です。いずれ息子に引き継ぐことになりますが、その時はもっとこの仕事で輝いてほしいし、法人化などの新しい道も開拓してほしい」と語ります。

熊谷農園では、原木しいたけをはじめ、玄米食用の品種「金のいぶき」、ホクホクのかぼちゃ「メルヘン」などを栽培しています。「美味しくて良い品質のものを作ることによって林業・農業を盛り上げていってほしい」。熊谷さんの思いは次世代に受け継がれていきます。

【 原木しいたけ 】

原木栽培は、クヌギやナラなどの丸太状の原木に種コマと呼ばれる菌を打ち込み、原木に含まれる養分と水だけで育てる、天然に近い栽培方法です。生しいたけの栽培はかつては原木栽培が主流でしたが、最近では、栽培のしやすさから国産の生しいたけの9割ほどが菌床栽培(おがくず等をブロック状に固めた菌床で育てる方法)されており、原木栽培の生しいたけは貴重なものとなっています。しいたけは、低カロリーでミネラルや食物繊維が豊富。食物繊維の一つであり、免疫力を高める働きが期待されるβ-グルカンなどが含まれています。

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